アフガニスタン第三の都市、へラートに入る≪九月二十七日≫ ―爾―手足をいっぱいに伸ばし、バスを降りる。 やっと、バスの旅から解放されるのだ。 窓ガラスから射し込んでくる陽射しとも、埃っぽい砂漠とも、リクライニングのない硬い座席とも、暫くの間・・・・おさらば出来る。 屋根の上では、乗客たちの荷物を解き始めていた。 皆が、争ってバスの屋根に登ろうとしている。 自分の荷物は自分で下ろさないと、またチップをおねだりされてしまうからだ。 俺も屋根の上に上った。 自分のバックパックを見つけることに時間はかからない。 荷物を担いでバスを後にする。 久しぶりの街だ。 貴重な旅をさせてくれた、オンボロバスともここでお別れだ。 こんなオンボロバスで、不安の多かった旅だったが、何とか目的地まで辿りつく事が出来てホッとしている。 * 街を歩くが、「Kabul(カブール)」のような賑わいはここにはない。 パシュトゥ系の人達をあまり見かけない。 モンゴル系の貧しい人達を多く見かけるという事は、あまり奇麗な街ではないようだ。 今居る所が、へラートのどの辺に位置するのかまるでわからない。 まず、自分のいる現在地を確認しない事には、次の行動にうつせない事情がある。 ホテルも近くには、一軒しか見当たらないようだ。 久しぶりに担ぐ、荷物の重さが、肩に食い込んでくる。 街を徘徊して、安宿を探す気力も無く、一軒しかないホテルに向かった。 ホテルに入る。 メイン通りに面しているだけが取り得だけの汚いホテルだ。 俺 「すんません!一人だけど・・・部屋空いてます???」 マスター「イエス!どうぞ!」 俺 「いくらですか?」 マスター「一泊、30Afg(210円)ですよ。」 少々高く、部屋が汚い。 しかし、これ以上歩くのも嫌なもんだから、一泊だけ泊まることにして、部屋に案内してもらった。 二階に通された部屋は、割と広く、窓からは今歩いてきた通りが下に見えている。 マスター「シャワーとトイレは、共同です。案内しましょうか?」 俺 「後で良いです!」 マスター「では、ごゆっくり。」 荷物を肩からはずして、スプリングの利いたベッドに横たわる。 久しぶりのベッドのようだ。 この充実感。 この時を、どんなに待った事か。 暫く、身動きもせずジッと天井を睨みつける。 腹が減って、昼食を取る為に起き上がる。 レストランでは、薄っぺらな”パン(ナン)”一枚とちょっとした煮物を胃の中に詰め込んで、すぐホテルに引き返す。 ベッドに横になると、すぐ眠りについたらしい。 ・・・・・・・。 死んだように眠った。 * 午後六時、夕食の為にホテルを出た。 昼食を食べたレストランに入る。 パサパサのライスに、”ナン”というパン、そしてジャガイモと茄子を煮たような食べ物を注文する。 この”ナン”というパン、薄く硬い。 贅沢は言ってられない、とにかく食べる事が大事なのだから。 インドでこのパンを始めて見た時は、さすがに食べれなかったのだが、ほかに食べるものが無いという現実に直面してからは、口の中に放り込まざるを得なかったのだ。 たとえ、それがあまり清潔なものではないと分っていてもだ。 この”ナン”というパンの工場を見たことがある。 工場と言っても、大きな土で出来た窯があるだけの質素な工場だ。 8帖くらいの土間で、4~5人の男達が上半身裸で、汗を流しながら働いている。 いかにも不潔そうな手で、パン生地が練りこまれて、うどんを作る時に使われる丸い棍棒で丸く薄く延ばされ、窯の内側のいかにも汚そうな壁に、ぺたりとくっ付けられて焼かれるのだ。 焼きたてのパンが、いかにも汚そうな土間の上に無造作に放り投げられ、そのまま客に売られていく。 味付けも・・・何もない。 ただ、焼いているだけのパン。 食べるものが無いという事は恐ろしい。 美味しく思えてくるほど、食べるものが無いだ。 もちろん、お金を出せば普段口にしているものも、手に入るだろうが。 極貧の旅では、そうもいかないのが現実。 ほかに、食べ物と言えば、羊の肉を鉄でできた串にさして焼いた肉。 これは、なかなか美味い。 ライスはパサパサで、あまり美味いものではない。 ちょっとしたご馳走と言えば、このパサパサのライスに、羊の肉をのせてバターをつけて食べるだろうか。 バターの味付けが、なかなか美味だ。 しかし、難点は・・・・高いのだ。 一食100Afg(700円)もする。 ホテル代、三泊分以上もするのだ。 普通の食事でも、60~80Afg(420~560円)。 極貧の旅では、この食費と通信費で苦労する事になるのだ。 どんな小さな村にでもあるのが、コカ・コーラだ。 さすがに世界のコーラ。 しかし、このコーラ、高くてまずい。 薄めて売っているのかも知れない程、まずい。 その上、水で冷やすくらいなものだから、そんなに冷えていないから、余計まずい。 それでも時々買ってしまうのは、地元の水を飲んで下痢をするよりはと考えての事なのだ。 それだけ注意していても、何かの拍子に水を口にする事がある。 この日、夕食の時、初めてアフガニスタンの水を飲んだ。 薬(抗生物質)を飲むのと、少々便秘気味なので勇気を持って飲んだのだ。 何とも無い。 台湾で下痢をしてから口にしなくなった水。 抵抗がついてきたのか。 タイやネパールでは、煮沸した水しか飲まなかったのに、インド辺りから少しずつ水を口にしてきたからだろうか。 移動中の下痢は困るが、ホテルにいるときの少々の下痢は何とかなると思っている。 夕食の帰りに、羊の肉を食する。 これを、”シシカバブー!”というらしい。 なかなか美味しい。 デザートにと、果物やで黄色いスイカを買った。 ラグビー・ボールのような形をしたスイカだ。 長旅の後は、少々贅沢な食事になるのは・・・・しかたないかな! 夜になると、周りが静かなせいか、やたらとアフガンの音楽が、有線放送のように五月蝿く聞こえてくる。 暑く、寝苦しい夜になりそうだ。 |